ドラマ良さがギュッと詰まった、劇場版ならではの新ストーリー!
個人的評価
総合評価:★★★★☆(4 / 5点)
作品の基本情報
作品名 | あなたの番です |
公開日 | 2021.12.10 |
ジャンル | ミステリー |
監督 | 佐久間紀佳 |
脚本 | 福原充則 |
主な出演者 | 原田知世、田中圭、西野七瀬、横浜流星 |
公式サイトはこちら
あらすじ
個性豊かな住人たちが住むキウンクエ蔵前。そんなマンションに越してきた手塚翔太と菜奈の夫妻は、住民たちを招いて船上で披露宴を行うことにする。しかしそこでマンションの管理人が何者かによって殺害される。夫妻と住民たちは、運航を停止した船の中で次々と起きる事件に巻き込まれていく。
鑑賞のポイント
- テンポ良く進むミステリー
- 個性豊かな登場人物たち
- 絶妙に制限されたカメラワーク
※以下、ネタバレが有ります!!
ストーリーを追う
ストーリーのポイント
- 事件の調査のために警察が船に乗り込んでくる
- 翔太は犯人を特定しようと考え始める
- 船内で停電が起き、それと同時に第二の殺人事件が起きる
- 翔太が怪しい人物に話を聞いて回る
- 二階堂忍が黒島沙和に指輪を渡す
- 内山達生の遺体が発見される
- 黒島の遺体が発見される
- 浦辺優への暴行容疑で翔太が身柄を拘束される
- 菜奈と二階堂がマンションの住民を甲板に集める
- 黒島を殺した犯人の服には特殊な塗料が付いるはずだと、住民に海水を浴びせる菜奈
- 翔太の服が黄色く発色する
結末
違和感を覚えた二階堂がさらに海水を浴びせると、刑事の神谷将人の服に黒島の手形の黄色い塗料がついていることが発覚する。さらに神谷は黒島の元恋人であったことが明かされる。神谷は「自分が二階堂を殺してしまう前に裁いてほしい」と黒島に頼まれて彼女の首を絞めたことを告白する。
神谷は警察に連行され、船は無事に港に到着する。
翔太は菜奈が誤って発射させた矢によって腹部に傷を負ったが、無事に生き残ることができる。
黒島沙和の過去
”普通”とたたかっていた
黒島は自分が普通の人間ではないことに悩んでいた。自殺癖があり、また人を殺す夢を何度も見ていた。黒島は突然訪れる殺人衝動に耐える日々を送っていた。
”普通”の女の子であることを両親が望んでいたため、必死にそのように振る舞っていた黒島は、”普通”の行動として、いじめられていた内山を助ける。内山はそんな黒島に惹かれて、彼女を崇拝するようになる。
とあることがきっかけで自分の脳のCTスキャンを手に入れた黒島は、自身の家庭教師で医大生であった松井にそれを見せ、自分が反社会性パーソナル障害の患者と近いことを知り、納得する。
黒島の行った二つの殺人
衝動に必死に耐えていた黒島だったが、ある日、南雅和の娘である穂香と二人きりになった時に、ついに殺人を行ってしまう。また、そのことに勘づきつつも見て見ぬふりをしていた松井と無理心中をするために海岸から飛び降りるも、自分だけが助かってしまう。
黒島の正体
黒島は赤池幸子の隠し孫であった。幸子はそんな孫を溺愛しており、莫大な遺産の多くを孫に分与しようと考えていた。
赤池美里の殺人計画
赤池美里の黒島殺害計画
赤池美里は、自分が世話をしている姑の幸子の遺産の多くが夫の吾朗ではなく、隠し孫である黒島にいってしまうことに腹を立てていた。
そこで黒島の殺害計画を立てる。
美里は死にたがっていた管理人の床島比呂志を実行犯にしようと扇動し、手塚夫妻の披露宴が行われる船の中で黒島を殺害しようとしていた。
この辺りのやりとりについては、金曜ロードショーで放送された特別ドラマに描かれている。
第一の殺人
床島比呂志殺人事件
管理人である床島が溺死させられた事件。犯人は黒島と内山の共犯である。
床島は美里に煽られて黒島の殺害計画を実行しようとしていた。しかしそれを察知した黒島に返り討ちにされる。
映画の中でははっきりと示されてはいないが、おそらく黒島は内山と共に床島を殴って気絶させ、船を港に固定するロープで床島を縛り上げて海へと放り込んだ。床島は海中で目を覚ますが、そのまま溺死する。
第二の殺人
南雅和殺人事件
黒島の部屋に侵入していた南が焼死させられた事件。犯人は浦辺。
浦辺はかつて黒島に殺害された松井の恋人だった。そのことを恨んだ浦辺は黒島を殺害するために部屋の中に灯油をまき、火をつける。しかしその時実際に部屋にいたのは黒島ではなく南だったため、南が焼死することになった。
南がなぜ黒島の部屋にいたのかは明らかになっていないが、彼もまた娘の殺害容疑で黒島を追っていたため、問いただそうとした、殺そうとした、何か証拠を見つけようとしたなどの理由が考えられる。船の乗組員として働いていた南はマスターキーを使って黒島の部屋に侵入していた。
南は翔太によって消火されるが、思いを遂げる前に絶命する。
第三の殺人
内山達生殺人事件
引き上げられたサメの口の中に内山の首が入っていた事件。犯人は神谷。
神谷は黒島の元恋人であった。内山は黒島と神谷が会うことに反対していた。そのため、邪魔に思った神谷が内山の首を絞めて殺害する。遺体は恐らく船から海へ投げ捨てられたのだが、たまたまそれをサメが食べたために、首だけ発見されるに至った。
第四の殺人
黒島沙和殺人事件
絞殺された黒島が甲板上に吊るされていた事件。犯人は神谷。
神谷は黒島の殺人癖を知っており、殺人を庇える自分のもとへ帰ってくるよう説得していた。しかし黒島が本気で二階堂を愛していることを悟ると、黒島にいつか二階堂を衝動的に殺してしまうはずだと囁きかける。自分のことを信じられなくなった黒島は、神谷にそうなる前に自分を裁いてほしいと頼む。神谷はその頼みを聞き入れ、黒島を殺害。黒島がしていた指輪を外し、遺体を甲板に吊り上げた。
ドラマとの相違点
手塚夫妻が生きている
ドラマ版では交換殺人ゲームが行われたために、黒島が関わっている殺人事件とそうでないものが複雑に入り組んでいた。それに深入りしていた手塚夫妻は、黒島によって妻である菜奈が殺されてしまい、翔太も危害を加えられる形となっていた。しかし今回は黒島が二階堂と出会って改心していたこともあり、夫妻は生き残ることができた。
黒島に無関係な事件が起きていない
ドラマ版では交換殺人ゲームが本当に行われているのだという強迫観念から、殺意のなかった人物たちが次々と無関係の人を殺害していった。しかし映画版では時間的制約や、船上という限られた空間の中だったこともあり、非常にシンプルな事件となった。
ドラマとの共通点
情報の制限とテンポの良さ
映画では絶妙なカメラワークやシーンの繋ぎ合わせによって、殺人事件に関係のある情報と無関係の情報がうまく小出しにされていた。誰もが怪しく見えてきてしまうようなミスリードが次々と出てくるやり方は、ドラマでも見られた手法である。
特に二階堂が黒島に指輪を渡すシーンでは、意図的に黒島が真反対の反応をしているかのように映し出されていた。
約2時間という限られた時間の枠があることもあり、4つの事件がテンポ良く起きていたことも印象的である。
登場人物たちの濃いキャラクター
ドラマ版から引き続いて、登場人物たちのキャラクターが濃い。住民たちは一癖も二癖もあり、それが映画版でも十二分に発揮されていた。人によっては出番が少ないキャラクターもいたが、それぞれが良いミスリードになっていた。
総評
映画版はドラマで描かれていた登場人物たちの背景やキャラクターが前提で進められていたため、ドラマを未視聴だとなかなかついていけない部分もあったのではないかと思われる。個人的には、真っ当に生きている人たちが巻き込まれていないこのストーリーは好きだった。また、鑑賞後に公式サイトのトップにあるポスターを見ると、それぞれの視線が作中で関係のある人物に向いているのが分かり、とても興味深い。
ドラマほどの複雑さはなくシンプルなストーリーであったが、映画ならではの派手さもあり、とても良かった。ドラマの良い部分をふんだんに盛り込んだ作品になっている。