ミステリー 映画レビュー

ノイズ

最悪の方向へ進んでいくのをただ観ていることしかできない悪夢

個人的評価

総合評価:★★★★☆(4 / 5点)

作品の基本情報

作品名ノイズ
公開日2022.01.28
ジャンルサスペンス
監督廣木隆一
脚本片岡翔
主な出演者藤原竜也、松山ケンイチ、神木隆之介、黒木華、永瀬正敏、伊藤歩、渡辺大知

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あらすじ

住民が支えあって生きる猪狩島で育った主人公、泉圭太は、クロイチジクで島を経済復興させようとしていた。その矢先、元受刑者の小御坂睦雄が島を訪れる。非常識な小御坂の態度に憤った圭太は誤って彼を殺してしまう。圭太は居合わせた幼馴染の田辺純、島の駐屯の守屋真一郎と話し合い、それをなかったことにしようとする。果たして彼らの計画はうまくいくのか……。

鑑賞のポイント

  • それぞれのキャラクターの複雑な心境
  • 閉鎖的な島の雰囲気

※以下、ネタバレが有ります!!

出典:https://wwws.warnerbros.co.jp/noisemoviejp/

ストーリーを追う

ストーリーのポイント

  • 小御坂の遺体を猟師である純の倉庫に運ぶところを横田庄吉に目撃される
  • 小御坂が保護士の鈴木賢治を殺害した通報を受けて愛知県警が島にやってくる
  • 県警の畠山努に事情を聞かれる圭太たち
  • 庄吉のたれこみで町長が倉庫にやってきて死体がバレる
  • 町長が純や真一郎が罪を被ればいいと迫る
  • 庄吉が町長を襲い、相打ちになる
  • 純が町長にとどめをさす
  • 庄吉は心不全で、町長は小御坂に殺されたことに偽装する
  • 純が死体をいちじく畑の下に埋めることを提案する
  • 純の倉庫が県警に暴かれるが、死体は畑に移された後だった
  • 嘘を突き通せないと思った真一郎が罪をかばって拳銃自殺する
  • 犯人は圭太で死体はいちじく畑にあるという一斉メールが送られる

結末

いちじく畑は県警によって暴かれ、圭太が罪を自白し逮捕される。一斉メールを送った犯人は純だった。純は圭太の妻である加奈に惚れており、常に圭太と比べられ劣等感にさいなまれた人生に苦しんでいたのだった。

圭太の心境

圭太や純、加奈の両親は島の連絡船の難破事故によって亡くなっている。親のいなくなった圭太は、島の人たちの助けによって自分達が生きてこられたということに対して大きな借りの意識を感じている。そのため、なんとしても自分のつくるクロイチジクで島に貢献し、恩返しをしようと考えていた。

小御坂が島にやってきたのは、まさにこれからそのクロイチジクを全国にアピールしようとしはじめた矢先のことであり、島に経費を使うかどうかを決定する地方創生局員と面談する前日のことだった。そのためどうしてもこのタイミングで問題を起こすわけにはいかなかったのである。

小御坂の殺人を隠蔽すると決めてからは、なんとしても島と家族を守りたいという気持ちで事を進めていく。しかし最後に純に裏切られたことを悟り、今まで彼の気持ちを無視し続けてきたことを後悔する。

真一郎はなぜ自殺をしたのか

真一郎は圭太たちの幼馴染である。島の駐屯となることを夢見て島を出て、その夢を叶えて島に戻ってきた。
元々は正義感が強く、小さな事故も正確に報告しようとしていた。しかし、前駐屯の岡崎に島を守るためのカサブタになれと言われたことで、島の駐屯としての在り方を学ぶ。

事件が起きたのはちょうど岡崎が島から出ていった直後のことであり、島の経済復興にとって圭太が逮捕されるわけにはいかないことを理解している真一郎は、”カサブタ”の精神で進んで隠蔽を提案してしまう。

しかし、もとから正義感が強かったこともあり、次第に嘘をつき続けることに耐えられなくなり、また嘘を突き通す自信を失ってしまう。
そして、自身の母親に自分の名前の由来は真実の真だという話をされたことで、精神的に追い詰められていく。

最終的に小御坂の遺体が置いてあるはずの純の倉庫が暴かれるという話を聞き、遺体がいちじく畑に移されていることを知らない真一郎は、遺体が発見されることから逃れられないと悟って自ら罪を被ることを決断した。
ある意味では、自分が罪を被ってそれが表向きに真実だとされることで、死してなお”嘘をついている”という状態から解放されたかったのかもしれない。

純がなぜ圭太を裏切ったのか

純は圭太の妻である加奈に片想いを続けている。それは純の部屋の壁に貼られている異常な数の写真を見れば明らかである。
さらに、純は子供の頃から何かにつけて圭太と比較されてきていた。その様子は町長などのセリフから、作中で幾度か見られる。
これらのことが動機となり、純は事件の途中から圭太を罠に嵌めようと考えていたのである。

町長が倉庫にやってきた際に、純は彼女にとどめを刺している。それは町長の存在が小御坂の遺体を隠蔽するのに邪魔だったからでもあるが、恐らくその直前に圭太と比較されたことが純にとって一番言われたくないことであったからでもあるだろう。純の心の中は、それほどまでにギリギリの状態であったと考えられる。

純は町長の遺体の処理を考えている際に彼女の携帯を手に入れた。そして、圭太を嵌める作戦を思いついたのである。
途中までは圭太の計画に則って庄吉と町長の遺体を処理をし、そして自分の倉庫の冷凍庫が暴かれる前に小御坂の遺体をいちじく畑に移したのである。
その後、圭太が遺体を畑に埋めた頃を見計らって、告発メールを一斉送信した。

そんな純にとって、真一郎が自殺してしまうことは計画外だった。遺体をいちじく畑に移すことを話していなかったのは、作中でも言っていたとおり、真一郎がこれ以上嘘を突き通すことが難しいと判断したためである。真一郎を思って計画から遠ざけたことが、かえって彼を追い詰めてしまったのである。

純の計画は県警の畠山にはすべてを見抜かれている。話は純の一人勝ちによって終わるかのように見えたが、加奈には逮捕された圭太を待ち続けるという強い気持ちがあり、結局純の欲しかったものは何も手に入らないという雰囲気で締めくくられている。

いちじくに込められた意味

物語の舞台となったのは愛知県にあるとある島である。いちじくは愛知県が国内生産一位を占める果実である。
この果物が物語の鍵として選ばれたのは、さまざまな理由があると考えられる。

まず、無花果という名前の由来の通り、花がならないというこの果実の特性を、純の内側に秘めた思いが熟していく様にたとえたという説である。純がその人生の中で少しずつ加奈に対する恋心や、圭太に対する劣等感、嫉妬心をためていった様は、まさに目に見えないところでいちじくの実が熟していく様子に似ている。

次に、これも1つ目に似ているのだが、1日いちにちと3人の罪が熟し重たくなっていく様を、日毎に熟していくいちじくの実に例えたという説である。一見するとそうは見えないが、割ってみると中身がグロテスクないちじくの実は、まさに表面的に取り繕っている圭太たちの行いに似ていると言えるのではないだろうか。

しかし、そんな見た目に反していちじくの花言葉はポジティブなものが多い。「子宝に恵まれる」「多産」「裕福」「実りある恋」といったものがみられる。これは子宝に恵まれて幸せに暮らしている圭太の家族を象徴しているといえるだろう。

さらにいちじくは、旧約聖書にも登場する植物である。あのアダムとイブが禁断の果実を食べたのち、恥部をいちじくの葉で作った腰みので隠したという記述が残されているのである。このようにいちじくは、不都合で恥ずべきものを隠すという意味がある。これはまさに3人が殺人を隠蔽しようとしている様子にあてはまるのではないだろうか。

ノイズは誰だったのか

タイトルにもなっているノイズ。これは一体誰を指す言葉だったのだろうか。
これには、誰にとってのノイズなのかという視点を持つことで、さまざまな答えを想定することができる。

例えば、島にとってのノイズという意味では、明らかに小御坂が挙げられる。小御坂はちょうど経済復興をしようとしていた猪狩島にとって不都合な異端者であり、実際に島の中で殺人を行い、その地を汚している。小御坂さえいなければ島は順調に圭太のクロイチジクを使って5億円の経費を手にしていただろう。また、たとえ小御坂が犯罪者でなかったとしても、猪狩島の住民は島の外の人間を毛嫌いしている様子が見られるので、島にとって彼はノイズだったに違いない。

しかし、実際にこの物語全体を見れば、ノイズに該当するのはだろう。純は長い年月をかけて、人妻である加奈に想いを寄せ、幼馴染である圭太を裏切った。純がもしも圭太を裏切るようなことをしない人物であったなら、恐らく小御坂の遺体は発見されることはなく、島には再び平穏が訪れていただろう。純の行動は圭太だけでなく、島を裏切る行為でもあったため、その観点でいけば島にとってのノイズも純であったと言えるかもしれない。

その純から見たノイズは、つまり自分にとって邪魔な存在という意味で、圭太になるだろう。圭太は自分が劣等感を感じさせられる存在であり、想いを寄せる加奈を奪った張本人である。純はもしかすると、この事件がなかったとしても、ずっと隣にいながらいつか圭太を排除してやろうとずっと心に秘めていたのかもしれない。

映画の中で何度も登場する、娘であるえりなの絵日記がある。そこには、両親と純の3人とともに遊園地に行く話がつづられている。えりなにとっても純は家族と同等の存在であることを示している。この無邪気な絵日記は、そんな近しい存在である純がずっとそのような思いを心に持っていたという、おぞましく、恐ろしい事実をさらに強調する小道具としてうまく使われている。

総評

この作品はさまざまな人物の心境とそのすれ違いをうまく描いている。タイトルが秀逸で、誰にとってのノイズなのかという視点で様々に捉えることができる。また小道具使いもとてもうまく、非常に効果的な演出がなされている。サスペンスとしてもミステリーとしても楽しめる作品。

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