アクション 映画レビュー

「ブレイブ ー群青戦記ー」を徹底考察!

戦国×青春の異色のコラボレーション!

個人的評価

総合評価:★★★★☆(4 / 5点)

作品の基本情報

作品名ブレイブ ー群青戦記ー
公開日2021.03.12
ジャンルアクション
監督本広克行
脚本山浦雅大、山本透
主な出演者新田真剣佑、山崎紘菜、鈴木伸之、濱田龍臣、鈴木仁、福山翔大、飯島寛騎、
渡邊佳祐、水谷果穂、宮下かな子、市川知宏、高橋光臣、三浦春馬、松山ケンイチ

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あらすじ

 スポーツの名門、星徳学院。弓道部で歴史オタクの西野蒼は、何事にも一生懸命になれず無気力に日々を過ごしていた。
 ある日の放課後、校庭の磐座に雷が落ちる。すると突然血のような雨が降り始め、季節外れのセミが鳴き出した。立ち込める霧の向こうから現れたのは、戦国時代の武者の軍勢だった。
 校舎ごとタイムスリップしてしまった蒼たち。武者にさらわれた仲間を助けるため、高校生アスリートはそれぞれの部活の道具を持って立ち上がる。果たして彼らは無事元の時代に戻れるのか……?

ポイント

  • 歴史×青春の異色の組み合わせ
  • 本格アクション
  • 個性豊かなキャラクターの掛け合い

※以下、ネタバレが有ります!!

ここに注目!

歴史×青春の異色の組み合わせ

 数あるタイムトラベルものの中でも、これ程までに多くの高校生が一度にそれを行う作品は珍しいだろう。この最大の特徴によって、作品全体に”青春”の雰囲気が漂っている。
 ”青春”という言葉は、平和な世界があって初めて成り立つものである。戦が絶えない世の中では、若者たちは常にどこかで命の危険にさらされている。10代特有のあの輝かしくて少し痛々しい青春の煌めきは、そんな危機とは無縁の生活の中でしか生まれない。数百年前の時代にもし似たようなものがあったとしても、それは恐らく我々が想像する青春とは少し異なっていることだろう。
 日本の各地で頻繁に戦が勃発し明日の我が身を想うような時代に、そのような”異質”な現代の空気感が交わる事で、この作品は他の歴史ものにはない独特の雰囲気を作り出している。

 また作中では、仲間の死を悲しむ蒼を見て、家康が先の未来では人ひとりの命が散ったことを深く悲しむことができるような平和な世界が訪れていることを悟り、明るい世をつくりたいという自身の夢に希望を見出している。そんな時代だからこそ成り立っている蒼たちの青春を目の当たりにした家康の気持ちを考えると、この作品により一層の深みが出てくるだろう。

後に様々な効果を生む序盤のシーン

 序盤では、校舎に攻め入ってきた武者たちによって、多くの生徒が訳もわからぬままに殺されてしまう。このシーンがしっかりと描写されていることによって、様々な効果が得られる。
 まず、戦国という時代の厳しさを登場人物と観客に印象付けている。平和慣れしてしまった蒼たちは、目の前で友人が斬り殺されていく惨劇を経験して、人の命が簡単に消えてしまう戦の時代の現実を身をもって経験する。

 これは映画のリアリティにもつながってくるが、何より後の感動を生むために重要なことである。このシーンを通して戦というのがどういうものなのかを知った蒼たちが、それでも敵陣に赴くということは、言葉の通り”命をかけて”事を成そうとしているということになる。
 序盤のシーンがあるからこそ、生徒たちの決断や行動に重みが出て、彼らの闘いが茶番じみたものではなく、感情を揺さぶるものになるのである。

本格的なアクションシーン

 この映画で重要となるのは、それぞれの部活動に絡んだ動きである。この作品には、それぞれの生徒が全国で名を馳せるレベルで活動しているアスリートたちであるという設定がある。このように何かに秀でているというキャラクターの場合、それを演じる人たちが初心者のような動きをしてしまうと、どうしても感情移入がしづらくなってしまう。
 しかし今作ではそれぞれが本当に良いアクションをしていた。そのため、各自が自身の部活動で培った動きを全力で披露し闘いを挑む終盤の場面でも、観客の心を作品に乗せたまま駆け抜けることができている。

 また、時代ものには欠かせないと言ってもいい殺陣のシーンも見どころの一つである。さらに、高校生役に若手の俳優をふんだんに起用しつつ、歴史的に重要な人物の役を大御所俳優に任せていることで、作品全体に締まりが生まれている。

個性豊かなキャラクター

 この作品の原作は、ヤングジャンプで連載された「群青戦記」というコミックである。そのため、登場人物には少年漫画に特有の濃いキャラクターが揃っている。しかし、作品全体に青春の雰囲気が漂っているため、濃いキャラクターでも浮いてしまわず、いいアクセントとして上手く溶け合っている。

考察

タイムパラドクスの問題

 タイムトラベルを扱う作品について回るのがタイムパラドクスの問題である。今回で言えば、不破が過去に飛んだ時点で、現代の蒼たちの日常に影響は出ないのかという問題であろう。
 実はこの問いに関しては、映画の序盤ですでに答えが出ている。タイムスリップした時点で蒼たちが持っていた日本史の教科書は、我々が知っている歴史をおおよそ正確に伝えているものであった。つまり、不破のクーデターが失敗に終わり、蒼によって歴史が守られることはこの時すでに明示されているのである。

 しかしここで一つの矛盾が生じる。それは戦国時代で不破が名乗った武将の名前についてだ。
 作中で不破は戦国時代には存在しない武将の名前を名乗ったと発言している。しかし、蒼は初めて不破の軍からの敵襲にあった時、不破が名乗った名を「マイナーな武将の名だ」と言っている。現代で不破は天才と呼ばれており、また歴史を改変しようと色々と調べていたはずであるため、いくらマイナーであっても存在していた武将の名前を知らない事はないだろう。つまり、蒼は不破が戦国時代でその名を使ったためにマイナーな武将として不破の事を知ることになり、しかし不破は現代においてその武将の存在を知らなかったという矛盾が生まれているのである。
 
 この問題については、不破がタイムトラベルをした後から蒼たちが戦国へ行くまでの間のどの時点かで、過去にそのような武将が居たという新たな資料が発見されているという説明をすることが可能である。映画の最後で蒼に似た徳川家康の肖像画が発見されたニュースがあったように、不破が過去へ飛んだ後の未来で資料が見つかったとなれば、この矛盾は一応説明できる。

歴史の修正力

 作中で不破が言っていたように、蒼たちは歴史の修正力によって戦国に呼ばれた。不破ひとりが歴史を破壊しようとしていることに対して、その力は蒼たちを校舎ごと過去に飛ばすことでようやく均衡が取れると判断した。敵陣に攻め入って不破を倒したのは蒼を含む数名の生徒だけだが、上記した通り、蒼たちが本当の意味で決死の覚悟をするためには、大勢の人々が目の前で亡くなる必要があったとも言える。考太の死を乗り越えて蒼が皆を仕切り、徳川家康の代わりを勤めるほどに成長するためには、蒼だけではなく仲間の助力は必要不可欠であった。
 修正力はそのような蒼の成長も見越して、校舎ごと飛ばすという判断を下したと考えていいだろう。

群青とは何を指すか

 「ブレイブ」というタイトルには「群青戦記」という副題が付けられている。では、この群青とは何を指すのだろうか。
 まず一番に思い浮かぶのが、やはり青春という言葉である。群青とは「青が群れる」と書くが、この作品はその名の通り、それぞれに青春を有した人物たちが集まって織り成す物語である。
 また、「あお」という言葉からは主人公の「蒼」が連想される。群青戦記とは、蒼が成長し戦う物語ともとることが出来る。
 青色について派生させるなら、ポスターに印象的な晴れた空や、蒼が遥から託される手ぬぐいも、青に関連するものだろう。作品全体のあらゆる場面に青を思わせるものが散りばめられているのである。

総評

 原作を一部だけ読んだが、それと比べて映画での蒼の”歴史オタク度”は多少下げられているように思う。それによって観賞後、この程度の知識で、家康にそっくり成り代わって歴史をつゆも違わぬように守り抜けるのだろうかという疑問が残った(元々歴史上で家康とされていた男=蒼とすると、知識がなくても蒼がした行動が正史と考えることはできる)。
 しかし、タイトルに「ブレイブ」と付けられているように、仲間を信じ、自分を信じるという作品のテーマはとてもよく伝わって来た。戦国時代での戦いの話を観ているにもかかわらず、現代の青春ストーリーを観ているかのような不思議な感覚を味わえるのは、この作品唯一の魅力であろう。また、基本的なルールに則っているので、タイムトラベルものの入門編として観るのも面白いだろう。
 アクションやキャラの濃さ、歴史ものの重々しさと青春ものの軽やかな部分が絶妙なバランスで織り交ざった作品である。

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