映画レビュー

「サマーゴースト」を徹底考察!

短い中でもキャラの成長や伝えたいことがしっかりと描かれる

個人的評価

総合評価:★★★★☆(4 / 5点)

作品の基本情報

作品名サマーゴースト
公開日2021.11.12
ジャンルアニメ
監督loundraw
脚本安達寛高(乙一)
主な出演者小林千晃、島崎信長、島袋美由利、川栄李奈

公式サイトはこちら

あらすじ

ネットで知り合った友也あおいの3人は、それぞれに事情を抱えた高校生。3人の目的は、夏にだけ現れるという幽霊の噂が本当かどうか確かめることであった。目撃情報から、どうやら花火をしている時にだけ現れるらしいことを突き止めた3人は、大量の花火を買い込んで、幽霊が姿を表すらしい場所へと向かう。
なかなか現れない幽霊にがっかりしながら最後の線香花火に火をつけると、どこからともなく強い風が吹く。
振り返った先にいたのは、本物の幽霊、佐藤絢音だった。

鑑賞のポイント

  • 3人の成長と変化
  • loundraw監督と脚本 安達寛高氏のタッグ

※以下、ネタバレが有ります!!

出典:https://summerghost.jp

ストーリーを追う

ストーリーのポイント

  • 絢音は3人の質問に少しだけ答えて消えてしまう
  • 友也は1人で何度も絢音に会いに行き、幽体離脱を経験する
  • 受験生の友也は絵が描きたいという本心と、周りの期待との間で悩んでいる
  • あおいは学校でのいじめに悩み、自殺を考えていた
  • 涼は余命9ヶ月を言い渡されており、1人で絢音に会いに行っている友也に気づいて苛立っている
  • 友也は絢音が殺されてしまい体を探している事情を聞いて、体探しを手伝う
  • いくら探しても体は見つからず、絢音は搜索を断念する
  • 友也はあやねと涼に手伝うよう頼むが、涼に断られてしまう
  • あおいが涼を説得し、4人で体を探すことになる
  • 体が見つかり、現実の世界に戻った3人は絢音の体の元へと急ぐ
  • 埋まっているケースを掘り出そうとする友也が”絢音”に死をそそのかされて、止まってしまう

結末

友也をそそのかしたのは絢音ではなく、死ぬ理由を探していた友也自身だった。友也は仲間の声でそれを振り切り、現実世界で絢音の体を見つけ出す。友也は絵を描きたいという気持ちに素直になり、あおいはいじめに立ち向かう。涼は亡くなるまで懸命に生き抜いた。
次の夏、”サマーゴースト”として現れた涼は2人と再会を果たす。

キャラクターたちの変化

友也の変化

友也は何でもそつなくこなしてしまう高校3年生。
受験を控えて、母親や教師の期待に応えるために勉強をしている。しかし心の底では、いい大学に入って大金を稼ぐよりも、絵を描くことを大切にしたいと考えている。このことは、彼のクローゼットの中身によく現れている。彼のクローゼットには、キャンバスなどの画材道具が制服によって隠されている。

友也は、勉強や進路について執着している母親にはうんざりしているものの、はっきりと不満を口にすることはない。ただ、毎日その期待に応えようと頑張っているうちに、自分の本当の気持ちが分からなくなってしまう。
そうしてうっすらと死にすら魅力を感じるようになった友也は、”幽霊”に会うためにあおいと涼を呼び出した。

幽霊である絢音に出会った友也は、霊体となって空を飛ぶ方法を教わる。それは、心の奥底で行きたいと思っている所を素直に思い浮かべるというものだった。
そうして友也が辿り着いたのは、美術館の中だった。友也は、やはり絵の道に進みたいのだ。
そのような経験を繰り返しながら、彼は少しずつ自分の心と向き合っていくのだが、その途中で絢音の事情を聞かされる。

絢音に体探しの話を聞いて以来、友也はそれに躍起になって取り組むようになる。それは彼女に世話になっているためだけでなく、おそらく彼の中に死に対する誘惑があったからである。
絢音はそもそも死というものを意識している者にしか見ることが出来ず、また最後に彼は”死ぬ理由を探している彼自身”と対峙することになる。

”死にたがりの友也”と対峙した彼は、そちらへ行きかけるが、あおいと涼の声に呼び戻されて、最後にはその気持ちと決別する。
絢音の死体探しを通して、死にたがっていた自分の存在に気づき、そして別れを告げることができたのだ。

こうして友也は、心の奥底にしまってあった「絵を描きたい」という気持ちを受け入れて、それを大切にしながら生きることを決意する。

あおいの変化

高校2年生のあおいは、学校でいじめを受けている。
あおいはスクールカーストにも、助けてくれない大人にも、そしていじめられる自分自身にも嫌気が差し、自殺を考えていた。
しかし、「死後にもカーストのようなものがあったらどうしよう」という思いから、”幽霊”に死後の世界について聞いてみようと考えていた。

絢音から思ったような答えを聞けなかったあおいは悶々としながら日々を過ごす。しかしその後、絢音が自殺したわけではないことと、涼がもうすぐ病気で死んでしまうという事実を知る。
そうして隠していた本音を吐いた涼に、初めて自分がいじめられていることを話す

涼を説得し、絢音の体探しに加わる2人。そしてあおいは、必死に体を見つけ出そうとする友也の背中を押す。
この経験を通してあおいはいじめに立ち向かうことを決意し、嫌な現状を自ら変えようと動き出す。

出典:https://summerghost.jp

涼の変化

涼は病気を患っており、余命9ヶ月を言い渡された高校3年生。
部活動であるバスケが大好きだったことはSNSのアイコンからも推察できるが、その部活動も体力の衰えと共に出来なくなり、自分が確実に死に向かっていることを悟りながら生きている。
本音を隠す性格で、友人や慕われている後輩にも病気のことを隠し、悲しんでいる両親にも気を遣っていることがうかがえる。
このまま1人で死んでいこうと考えていたが、どうしても寂しくなってしまい、ネットで知り合った友也たちと出会った。

絢音に出会った涼は幽霊の存在を確認して、その後も近づいてくる死を諦めつつ、本心では怯えながら暮らしていく。そんな中で、友也が自分に隠れて絢音に会っていることに気づく。
涼は友也に隠し事をされていることにも、健康な友也が死に惹かれていることにも苛立ちを覚える。そのため、友也から絢音の体探しを依頼された時にも受け入れることができなかった。
しかし必死に追いかけてくるあおいに説得されて、友也のことを許していないながらも体探しを手伝うことになる。

クライマックスで死の誘惑に負けそうになっている友也に檄をとばし、絢音の体を見つけ出す友也を見届ける。
その後涼は生きることを諦めていたのを辞めて、治るかもしれないという希望を抱きながらたくましく生き抜いた
ラストで”サマーゴースト”となって2人の前に現れた時には、最後まで前向きに生きたことを誇らしく思っている様子が描かれている。

出典:https://summerghost.jp

絢音

些細なことで母親と喧嘩して家を飛び出した後、ひき逃げ犯に殺されてしまった女の子。証拠隠滅のために死体を隠されてしまったため、未だに世間で自分が死んだことが明らかになっておらず、帰りを待ち続けている母親を気掛かりに思っている。
土の中に埋まっているはずの自分の体を探し続けるが、見つけたところで触れられるわけでもないということに気づき諦めてしまった。
そうして線香花火をしている間にだけ現れる”サマーゴースト”として、いつか消えゆく運命に身を任せながら過ごしている。

しかしそこに、何度も会いにくる友也という存在が現れたことで、彼となら自分の体を見つけられるかもしれないという希望を見出す。だが、いくら探しても体は見つからず、取り憑かれたようにのめり込んでいく友也を見ていられなくなり、自ら終わりを告げる。

それに反して友也は諦めておらず、あおいと涼も捜索に加わったことで、ついに体が発見される。願いが叶ったことを嬉しく思いながら、長く共に過ごしてきた友也に、生きて欲しいという想いを伝える。

サマーゴーストとは何か

サマーゴーストは夏に使われなくなった飛行場で、線香花火をしている間だけ現れる幽霊のことのようだ。
では、この線香花火という枷にはどのような意味があるのだろうか?

線香花火という言葉からは2つのイメージが読み取れる。
1つは華々しく散ってすぐ終わるものという儚いイメージである。
線香花火はよく人生にも例えられる。徐々に輝きを増し、バチバチと燃えて、晩年になってその火花も小さくなりやがてぽとりと終わりを迎える。
絢音と涼には、そのような輝かしい人生を謳歌することなくこの世を去ることになったという共通点がある。これがサマーゴーストになれる条件に関わっているのではないだろうか。

もう1つは、線香という言葉から連想される死のイメージである。
線香花火は華やかでありながら、同時に儚いものであり、死者に手向ける線香にも似た存在である。このような特徴から、こちら側とあちら側をつなげるモノとしての役目を担うことになったのではないかと考えられる。

出典:https://summerghost.jp

監督、脚本について

「サマーゴースト」はイラストレーターであるloundraw氏が監督を務める。このストーリーは1枚の絵から構想された物語だと言われている。
初監督作品の短編映画であり、多少カクカクとした動きになっている部分もあるが、花火や水の表現は特に美しい。
また、友也とあおい、涼が3人で通話する際のカットは画面が三分割されているという興味深いシーンも見られる。

脚本には乙一として作家活動をしている安達寛高氏が名を連ねている。同氏はこの映画の小説版も手がけている。
特に、冒頭の3人で花火をするシーンはその後にとても効果的な影響を与えている。乙一氏の手がける作品は青春と死がうまく混ざり合っているものが多く、今回の作品も、重たいテーマながら、どこか爽やかさのあるものになっている。

総評

短編映画ではあるが、その中でキャラクターの魅力と成長をしっかりと描いた作品。クライマックスは特に感情を揺さぶられる。作画は独特なところもあるが、効果的なシーンもたくさんあり、約40分の上映時間でもとても満足感がある。自分の気持ちが分からず、どうすればいいか分からなくなってしまった時に観て欲しい映画。

-映画レビュー
-,