樹海に根深くはびこる呪いの考証
個人的評価
総合評価:★★★★☆(4 / 5点)
作品の基本情報
作品名 | 樹海村 |
公開日 | 2021.02.05 |
ジャンル | ホラー |
監督 | 清水崇 |
脚本 | 清水崇、保坂大輔 |
主な出演者 | 山田杏奈、山口まゆ、安達祐実、原日出子、神尾楓珠、工藤遥、倉悠貴、塚地武雄、國村隼、大谷凛香 |
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あらすじ
人に心を開かずネットでオカルト趣味にばかり昂じている主人公・響は、ある日富士の樹海を探索する女性の生配信を観ていた。しかし通信は次第に乱れ、女性はそのまま行方不明になってしまう。
一方姉の鳴はそんな妹に苛立ちつつ、響を友人夫婦の引っ越しの手伝いに駆り出す。馴染みの友人5人が集まり作業をしていると、新居の床下から奇妙な“箱”が見つかる。異様な雰囲気を察知した響だったが、惨劇は既にすぐそこまで迫ってきていた。
そして樹海と箱の因縁が明らかになり、姉妹は怪異に魅入られていく。
ポイント
- 絶え間なく襲いかかるホラー表現
- 樹海にまつわる根の深い因縁
- 怪談ファンは必見! 実はあの人やあの人が出演している!
※以下、ネタバレが有ります!!
ストーリーの考察
樹海の噂のリアリティ
その昔、富士の麓に住む人々は口減らしのために村人を樹海の中へと置き去りにしていたという。選ばれたのは心身に障害のある者たち。人々は見たくない者を見なくて済むようにすればいいというエゴを、”神への捧げ物だ”と謳って、次々と樹海へ放り込んでいった。
富士の樹海は、噴火して流れた溶岩の上に形成された土壌である。溶岩はあちこちに溶岩洞を作りながらその地を覆い尽くし、その下には噴火の犠牲となった人々が今でも眠っているという。
超自然的な雰囲気の漂うその森に、人々は他人の命を投げ捨てていった。
時が経ち、悪しき風習はなくなったが、今ではその複雑に入り組んだ樹海の中に死を求めて、自殺志願者が自ら足を運ぶようになっていった。しかしそこで死にきれなかった者たちが村を形成し、樹海の中で生き続けているという噂があった。
人々はそれを樹海村と呼んだ。
以上が作品の中で伝わる樹海村の噂である。物語の舞台となる青木ヶ原樹海は、実際に平安時代に発生した貞観大噴火の溶岩流の上に形成されたものである。その際に噴火の犠牲となった人はおそらく多勢いたことだろう。当時の技術で犠牲者を全て弔えているとは考えにくい。
また、かつての日本では障害のある人や育てられない子供を”神に返す”という名目で殺害していたという話は各地で見受けられるものである。
村が形成されていたかどうかは定かではないが、樹海の呪いの大元となるこの部分は、ほぼ事実に近いと考えてもいいかもしれない。
ここに注目!
ダブルヒロインがとことん追い詰められる!
響は樹海の影に、鳴はそんな響の行動によってどんどん追い詰められていく。心の支えとも呼べる人たちを次々に怪異が奪い去り、観ている側もほっと一息つける場面を少しずつ奪われている。
丁寧に施された細かな演出
初めのシーンと終わりのシーン(エンドロール前)を同じ構図でサンドしている。これによって観客が樹海に抱くイメージが対比しやすくなっている。最初は鬱蒼としげる不気味な木々の広がりが、最後には畏ろしくもどこか切ない印象を抱かせる。
幼い姉妹が出口に保護されるシーンでは、車を正面から写すことで富士山ナンバーを画面に映り込ませている。木々を上空から映したシーンの直後にこれを入れることで、物語の舞台が“あの”富士の樹海であるという印象を暗に忍び込ませている。
物語が進むにつれて、姉妹に少しずつ樹海の影が迫っている。響の部屋には序盤から外の木の影が意図的に写り込ませてあるが、これは姉妹が過去に箱に関わっており、樹海の呪いから逃れられない運命を暗示している。霊的な存在と近しい響には影が迫っているが、鳴には現実的なものに変えて少しずつその魔の手が伸びている。祖母を失った夜、過去を思い出した鳴が横たわる畳には、植物の刺繍が施されている。また、美優を助けようと樹海を訪れた夜のシーンでは、車体に反射する赤みを帯びた木々の枝が印象的である。
前作「犬鳴村」との繋がり
序盤から、前作にも登場したアキナがYoutuberとして活動している。また、前作の主人公・奏が病院で担当していた遼太郎も一瞬ではあるが印象に残る登場の仕方をしている。ネタバレになるためあまり詳しくは書けないが、アキナが生きておりそして樹海で亡くなったことから、前作の世界とはパラレルワールド的な繋がりであり、前作のヒットを受けた制作陣の遊び心であると思われる。
不気味さの残るエンディング
「恐怖はまだ終わっていない」というのは、ホラーのお約束とも呼べる終わり方である。今作は前作「犬鳴村」以上にその要素が強かった。というより、この呪いに対する根本的な解決は何もなされていないのである。幼い頃に箱に関わって縁を持ってしまったためか、天沢姉妹には最初から救いがなさすぎる。樹海村の亡者たちは弔われることもなく、今でも次の”村人”を探しているのである。
清水崇監督作品と母の愛
「犬鳴村」と共通して、作品のテーマの一つとなっているのが”母の愛”である。前作では居なくなった我が子を探し求める母の愛が、今作では娘を何としても怪異から守りたいという母の愛が描かれている。無償の愛とも呼べるこの純粋な想いがホラーに加わることで、単に怖いだけではなく作品全体にどことない切なさをまとわせている。
怪談ファンにはたまらない! あの人も出演している!
樹海をさまよう亡霊たちの中に「あれっ、見たことあるぞっ」という顔が。怪談師のありがとうぁみさんである。さらに、「トリハダ」シリーズで強烈な印象を残し、様々なホラーで名を馳せている女優の笹野鈴々音さんが「犬鳴村」に引き続き出演されている。笹野さんは響が大樹になる際に、顔の近くに這い寄って来た亡霊役である。
さらに、取材協力の部分にもホラーファンにはお馴染みの名前が見受けられる。ルポライターの村田らむさんと、オカルト雑誌TOCANAの編集長・角由紀子さんである。豪華な面々が制作に関わっているなら、樹海にまつわる考証が深いのも納得である。亡霊やエンドロールにもぜひご注目を!
総評
全体的な完成度や映像の美しさ、救いのないストーリー展開を考えると、ホラーとして前作を凌駕する作品だと思われる。ただ、樹海近辺という特別な場所に限定されてしまうため、観賞後に日常を侵食するような恐怖はあまり残らない。しかし、観ている間は絶え間なくドキドキさせられる。ストーリーが分かりやすく、グロテスクな表現もそれほどではないので、観やすくておすすめのホラーです。