短編小説

霧の中でもその花は


 紫陽花という植物に特別な秘密があるのを知ったのはつい先日だ。テレビでそんな雑学が出たのをなんとなく見ていたのだ。
 その時も宗一は一緒にテレビの前に座っていたが、携帯に夢中な彼との会話はやはり特に何もなかった。

 そしてその直後、私は一人でこの道を歩いていた。その時は確かさっきの女が送ってきたハートマークを初めて目の当たりにした日だった。
 私は宗一と一度ちゃんと話がしたいと思ってコンビニに誘った。歩きながらの方がお互い冷静でいられると思ったのだ。
 でも、梅雨に入ったばかりのその日も雨が降っていて、宗一は面倒だとそれを断った。

「どうせ行くなら、ついでにタバコ買ってきて」
 そうしてかなり遅い時間にもかかわらず、私は一人でこの薄暗い道を歩くはめになったのだ。

 宗一の浮気は最近鳴を潜めていたため、久々の出来事に私はかなり暗い気持ちになっていた。
 コンビニの棚を見て気分を変えることもできず、むしろより一層落ち込んで、俯き気味にとぼとぼと帰り道を歩く私の視界に突然真っ青な花が飛び込んできた。
 それが、この紫陽花だった。

 紫陽花は街灯にぼんやりと照らされて、霧状になった雨も相まって、まるでそこだけこの世のものではないかのように思えた。その奥の方から今にも光に包まれたお釈迦様が現れて、私に声をかけてくれるのではないか。
 そんなことを考えながら見惚れているうちにふと、先程のテレビのことを思い出した。

 紫陽花の葉には毒がある、紫陽花の葉には毒がある。
 画面の中で、得意顔でそう言っていた人の言葉が頭の中にこだました。
 気がつくと、私の手は一枚の葉をむしりとっていた。

次のページへ >

-短編小説
-