毒と言っても人を殺せるほどではない。せいぜいめまいや吐き気を催す程度だ。
だから、私は風呂を沸かしておいた。宗一が一番好きな、長く浸かっていられるぐらいのぬるま湯で、いつもよりも水かさは多めに。
風呂の中まで携帯を連れて行く宗一は、きっと今頃心置きなくチャットのやり取りを楽しんでいることだろう。
彼の運が強ければ、気分が悪くなる前に風呂を上がり、数日間苦しむだけで済む。でももしも、私の運が強ければ……。
葉っぱを一枚“誤って”食べてしまっただけでどのくらいになるかは分からないが、過去には呼吸や歩行が困難になった例もあるようだった。
凛として咲くその花は、容赦無く振り続ける雨の中でより一層美しく見えた。
私はくるりと方向転換をして、家とは逆の方向に歩き出した。
せっかく日曜の午後に外に出たのに、コンビニにしか行かないのはもったいない。幸いなまものは買っていない。良い機会だし、ずっと行きたかったあのブックカフェへ行ってみよう。
携帯は“忘れて”きてしまったけれど、きっと遅くなっても彼は文句を言わないはずだ。
読書だとか、雑学だとか、宗一はそういうものに一切興味がなかった。それから、風情をたのしむという気持ちにもならないようだった。
どんなに私が勧めても、何年一緒にいてもそんな所は変わらなかった。
そういうものへの関心が少しでもあったなら、私が苦心して作ったあの薄青色の和菓子が、季節外れの桜餅ではなく、紫陽花餅であることに気づけたかもしれないのに。
そして、もっと私と会話をしようとしていれば、いつもと少し風味の違うその濃いお茶が、紫陽花の親戚の葉を使った甘茶であることも知れたかもしれないのに。
やがて雨は霧になり、辺りは薄暗くなってきた。
私は宗一にもらった傘をゴミ置き場にそっと立てかけて、真っ直ぐの道を歩き続けた。
霧の中でもその花は